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「かならず、還る」⑥ [ヤマト2199外伝]

episode: 5

 

 通信長

 相原義一 三尉

 

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 「地球との安定的な通信環境はいつまで確保できるか?」

冥王星での「メ弐号作戦」に勝利した直後、

相原は艦長室に呼び出され、艦長の沖田からそう訊かれた。

「ヘリオポーズを通過すると、おそらく地球との通信は不可能です。

それまでなら何 とか・・」

相原はこれまで幾度となく軍規に反して家族との密かな交信を繰り返していた。

太陽圏外縁部に到達した今、

確かにその通信状態はかなり不安定になっていた。

 

「相原通信長、君の意見を訊かせてくれ。

乗組員は皆、地球に大切な家族を残してこの過酷な航海に挑んでいる。

それゆえ地球の様子が皆、気になっているだろう。

しかし今の地球は・・・。

冥王星基地を殲滅したとはいえ、ヤマトが地球から遠のくにつれ、

人々の不安はかえって増すばかりだ。

皆ヤマトの帰還の可能性だけを話し合い、

そしてそのあまりに困難な旅に人々は絶望しつつある。

さらに暴動やテロが頻発し、日増しに疲弊していく今の地球。

そんな地球の様子を乗組員たちは知るべきなのかどうか。

君はどう思うかね?」

 

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相原は胸の鼓動が激しくなるのを感じていた。

地球に残してきた年老いた両親のことが気になるあまり、

つい無断で何度も家族と連絡を取ってしまった。

そして母のために

少しでも食料を手に入れようと

暴動に参加した父親が重傷を負ったことを知った。

出来る事なら今すぐにでも両親のもとへ帰ってやりたい。

しかしどうすることも出来ない苛立ちから、

相原はここ数日眠れない日が続いていた。

「私には、わかりません・・・」

相原は軍規違反の交信を悟られぬよう、

つとめて感情を殺して答えた。

 

「ふむ・・」

しばしの沈黙の後、

沖田は窓の外に目を移して

静かに独り言のように語り始めた。

「人は悲しいくらいに弱くて脆い。

そして時に人は、己のその無力さに絶望する。

しかし、私はその者こそがまた強いのだと信じる。

無力な己を甘んじて受け入れ、

己が出来うる事のみに向き合う。

それこそがまた、人の強さであると私は信じたい。」

 「この人はすべてを知っている。」

沖田の横顔を見つめながら、相原は思った。

 

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 「希望者には地球との5分の交信を許可する。」

今、第一艦橋でそう告げる艦長の姿を見つめながら、

相原はあの時の沖田の言葉を思い出していた。

あれ以来、相原は家族との無断通信をやめていた。

「俺はかならず、父さん母さんの元に還ってくる。」

今日のこの最後の交信で、

両親にそれを笑顔で伝えよう。相原は強くそう思った

 

 

 

 

 【妄想コメント】

ナイーブないいキャラなのに2199版では相原の見せ場が少ないんですね。そこで削られてしまった74年版の家族との無断交信のエピソードをアレンジしてみました。自分の妄想が本編の最終話でちょこっと出てきた相原の話ともうまくつながってちょっとうれしかったです。また74年版で毛利長官が伝えた地球の惨状を、沖田の台詞に少し盛り込んでみました。

 

 


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