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「かならず、還る」④ [ヤマト2199外伝]

episode: 3

 

  副長 兼 技術長

    真田 志郎 三佐

 

 

 

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 エンケラドゥスで捕獲したガミロイドの分析の手を休め、

真田はVLBI望遠鏡による8年前の青い地球をモニター画面に映し出した。

「汚れちまった悲しみに、今日も小雪の降りかかる・・・」

真田は薄暗い分析室で一人小さくそうつぶやいてみた。

意味も分からないまま、

幾度となく読みかえすうちに憶えてしまった詩の一節。

最近はそれが身に染みて痛い。

木星でのあの閃光が頭を離れない。

波動砲の性能は入念なシミュレーションによって十分把握しているつもりでいた。

しかし、実際のそれは数値やデータなどでは

計り知ることが出来ない脅威だった。

そして己の成してしまった事の重大さに戦慄した。

 

 一年前、秘密裏に立ち上げられた「ヤマト計画」。

その実行メンバーに選ばれたとき、俺はやっと自分の居場所を見つけた気がした。

これまでの研究や自身の考えが

地球を救うことにつながると想像しただけで興奮した。

その先にこそ人類の希望があると信じて

俺は俺のすべてを今まで注ぎ込んできた。

だがその結果、守るべき人類をも滅ぼしかねない禍を

この手で創ってしまった。

諸刃の剣となった波動砲の脅威を目の当たりにして、

俺はとうとうわからなくなってしまった。

波動エネルギーの兵器転用、自動航法システム、

そして陽動のための「メ号作戦」。

これらすべては青い地球を取り戻すための清廉な大義であるはずだった。

 

しかし本当にそれらは正しい選択だったのか?

いや、本当はずっと前から気づいていたのかもしれない。

ただひたすらに俺は自分を誤魔化し、考えないようにしてきただけなのだ。

だからこそ俺は、いつしか中央司令部の命令であるというだけで

かけがえのない親友に平気で嘘がつけるような男になってしまった。

 

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お前が散った冥王星で、南部が意見具申した時、

「波動砲は使わない」とあいつは即座に断言した。

俺には一瞬、あいつの顔がお前に見えた。

いや、間違いなくあの時のあいつは、

どんな時でも自分に正直なお前そのものだった。

俺ならもし、それが中央司令部の決定ならどうしていただろうかと考えるだけで

今でもたまらなく不安になる。

あの時、「自分に正直になれ。」と

お前が俺に突きつけてきたような気がしてならない。

 

それから俺は、弟のあいつが時折見せる表情や物言いに

幾度となく兄であるお前の気配を感じるようになった。

俺はいつしかあいつの中にお前を探していた。

今の俺にとって、古代進は古代守そのものなのかもしれない。

だからこそ俺はあの「メ号作戦」が陽動だったことを、

お前に伝えられなかったその事実を、

いつかあいつに話そうと決めた。

 

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臆病な今の俺には、それがいつのことになるかさえわからない。

しかしそれでも、合理に縛られた科学者である前に、

命令にのみ忠実な士官である前に、

その思いを持ち続けることで

かろうじてまだこの俺は一人の生身の人間として踏み止まっていられる。

そんな気がしてならない。

 

 

 

 

【妄想コメント】 

一見クールで合理主義者のような真田の人間的な部分を描きたいと思いました。真田が一人吐露する迷いや弱さを、本編の古代守や進とのエピソードとつながるように構成しました。

 


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