「かならず、還る」③ [ヤマト2199外伝]
episode: 2
航海長
島 大介 一尉
残り時間が30秒を切った。
思いはすべて幼い弟の次郎に託すことが出来た。
ただ母ともう一度話せなかったことだけが少し心残りだ。
各乗組員に家族との5分間の交信が許されたことは、
国連宇宙軍ヤマト計画本部から
それぞれの家族へ既に連絡が入っているはずだった。
それなのに入院中の叔母の見舞いに出掛けてしまった母は、
やはりまだあのことを気にしているからだろうか。
抜錨前夜に母と少し揉めた。
7年前のガミラスとの開戦で、
巡洋艦「むらさめ」の艦長だった父が戦死している。
その父を追うようにして軍人になった俺のことを、
母は今でも快くは思っていないだろう。
そして抜錨直前に決まった俺の航海長への就任。
それは父の階級がひとつ上がるたびに
不安を積もらせて生きてきた母の苦い記憶を揺さぶった。
「父さんのような思いはもうたくさん。死んでしまったら何も残らない。
大介は何が あっても必ず還ってきて・・」
抑え込んでいた気持ちが溢れてしまった母に対して、
俺は気遣うどころか、軍人としての父の尊厳を汚されたような気がして
思わず辛く当たってしまった。
そして抜錨の日、母へまともな挨拶も出来ずに家を出た。
ヤマトに向かう専用シャトルを待っていると
次郎が母から預かったお守りを渡しに来てくれた。
「父さんの時に渡せなかったから、それで・・」
母からの言付けを聞きながらそのお守りを手にした時
俺は初めて彼女のすべてを理解した。
次郎から受け取ったそのお守りは
頼りないほどに柔らかく、そしてすっかり萎れていた。
祈るしか術のなかった母は、
父が空に上がるたびにこのお守りに願いを託し続けてきた。
幾度となく祈る彼女の手の中で
このお守りはこんなにも萎れてしまったのだ。
そしてたった一度、
このお守りを父に渡せなかったあの日のことを
母は今も悔やみ続けている。
その母が今度は息子のために祈り
そして俺に渡されたこのお守り。
その願いを思うと胸がつまった。
だからこそ、母にあらためて
「かならず還ってくる。」ときちんと伝えたかった。
とうとう交信時間が残り10秒を切った。
その時モニターの遠く奥から「ただいま」という母の声が聞こえた。
母さん、早く、モニターの前に・・・・。
「待ってくれ!もう少し時間を、母さん!・・・」
思わずモニター画面に向かって、俺は叫んでいた。
【妄想コメント】
74年版の徳川さんが「まだ話したいことがある!」とタイムアウト寸前の画面にすがるシーンは、2199版では島の演出に使われたのですが、どうも淡泊です。島がどうしても母に伝えたいことがあったとしたらそれは?そこに彼が時折取り出して思いにふけるお守りも絡めて「もう少し時間を!」と叫ぶ島に意味を持たせたいと思いました。
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