「かならず、還る」⑨ [ヤマト2199外伝]
episode: 8
衛生長
佐渡 酒造 艦医
コスプレ姿ではしゃぐ女性乗組員や
酔いに任せて気炎を上げる輩などとすれ違いながら、
佐渡は通信室へと向かっていた。
皆がそれぞれに赤道祭を楽しんでいた。
そんな彼らに「緊張感がない」などと
年寄りの説教を垂れるつもりはない。
皆、このあまりに困難で過酷な航海の中で、
絶望に揺らぐ心の針を
日々懸命に希望へ押し戻そうとしているのだ。
今日くらいはその重荷を忘れるのもいい。
「緊急の通信要請だそうです。もちろん極秘ですよ~」
あからさまにいたずら顔をした原田から受け取ったメモには、
見覚えのないID番号が記されていた。
これも赤道祭での余興のひとつだとわかっていたから、
それに乗せられるのも悪くないと通信室までやってきた。
佐渡に最後の交信を交わすような身寄りがないことは
原田もよく知っている。
結局、佐渡はメモの通信先に何も思い当たらないまま席に着き、
そのIDを打ち込んでみた。
思わず身を乗り出していた。
モニターには佐渡の愛猫であるミー君が映っていた。
そこはミー君を預けた佐渡の住むアパート管理人の部屋だった。
佐渡はポケットから小さな猫じゃらしを取り出した。
それは抜錨以来いつもミー君を思い、お守りのように忍ばせていたものだ。
「ミー君・・・」
猫じゃらしをモニターに近づけてそっと呼んでみる。
懐かしい声を探してミー君が首をせわしなく動かした。
どうやらこちらの音声や映像も向こうに流れているようだ。
やっとミー君もモニターの佐渡に気付いたらしい。
画面いっぱいにミー君の顔が近づき、
佐渡の振る猫じゃらしに夢中になった。
佐渡は思わずモニターのミー君に頬擦りをする。
ミー君も画面越しに佐渡の顔を舐める。
頬に伝わるモニターの熱が、
佐渡にはまるで
懐かしいミー君の体温のように感じられた。
【妄想コメント】
74年版ではコミカルだった佐渡先生とミーくんの交信シーンをシリアスにアレンジしたいなと思いました。ミーくんとの頬ずりは74年版徳川さんと愛子のシーンへのオマージュです。
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